※この記事には「ゲームオブスローンズ」シーンズン6の5話までのネタバレを含んでいます※
言葉でこの感動を表現できるだろうか。 年端もいかない”女王”が涙しながら、年老いた男に永遠の忠誠を誓わせ、「女王から逃げることは許しません。必ず治療法をみつけて私の元に戻ってきなさい。」と命令する--「ゲーム・オブ・スローンズ 第六章:冬の狂風」5話でのハイライトシーン。
”女王”はこの年老いた護衛の男に、幾度と命を救われた。 護衛の役目にとどまらず、言葉も文化も異なる夫ドロゴの部族に慣れるための助言や、女王としての立ち振る舞いや考え方等、多岐に渡って彼女を支えてきた。 彼は”女王(カリーシ)”を崇めるYESマンではなく、唯一NOと言ってくれる心から信頼できる存在である。
王座を巡る戦乱の続く世界で、まっとうに人間くさい生き方をしてる一人ではないだろうかと思うのが、このジョラー・モーモントである。 彼は女性に対して実に紳士的である。目の前に一糸まとわぬ姿の憧れの女性がいても理性を失うことはない。
彼は第一章1話からの登場人物であり、”女王(カリーシ)”デナーリス・ターガリエンが、ドスラク人の部族(カラザール)の長”王(カール)”ドロゴと、自由都市ペントス

第一章1話:ジョラーとデナーリスが初めて会う。ドロゴとの結婚の儀にて。

第六章5話: デナーリスに生涯の忠誠を誓ったサー・ジョラー。ヴァエス・ドスラクを後に、旅に出る。
で結婚式をあげているシーンで初登場する。
お祝いの品として”七王国の歌”と”歴史の書”の三冊の本を「つまらないものですが、女王(カリーシ)に」と言ってデナーリスに渡したのだった。 当初は彼女のことを王妃と言ったこともあり、形式的に”女王(カリーシ)”と口にしているようだったが、血の滴る馬の心臓を苦しみながらも完食したことでドスラクの”女王”になれたことや、スローンズ(鉄の玉座)にはじめは関心のなかったドロゴに息子に王座を与えると”山々の母”に誓わせたり、ドロゴ亡き直後には燃えさかる火の中からドラゴンを孵化させ、それどころかやけど一つ負わずに出てきたり、解放した無数の奴隷を率いて女王ぶりを発揮させる等…数々の神秘的な行動を目の当たりするにつれ、彼女への尊敬が強まっていった。
ジョラー本人も、”女王(カリーシ)”への気持ちは凡人を超越した存在として尊敬の念を抱いてるだけだと思っていたに違いない。 ”女王(カリーシ)”への貢ぎ物として生け捕りにしたティリオン・ラニスターに「彼女を愛してるんだろ?」と言われたが、その時はまだジョラー自身、気持ちに気づいてないようだった。 ドロゴや彼の部族たちと訪れた懐かしの地ヴァエス・ドスラクの地を踏み、燃えさかる炎の中からやけど一つ負わずに神々しい姿であらわれた彼女を見てきっと気づいたのではないだろうか。 しかし、一糸まとわぬ姿のデナーリスを見つめるジョラーの表情からは、デナーリスの愛人・ダーリオ・ナハリスが抱く愛情を遙かに超越したもののように見てとれた。 それくらいに熱い思いがあるからこそ、ヴァリスの内通者だったことがバレ、一度追放されても、老いた体でコロッセオでの死をかけ戦い、デナーリスの命を狙う刺客・ハーピーの息子たちから救うことができ、鬱蒼と生い茂る広大な草原に彼女がいたことを示すために落とした小さな指輪を見つけることができたのではないだろうか。
ここからは憶測というよりも個人的な願望が強いのだが、ジョラーがウェスタロスから逃亡する以前に使っていた剣”ロングクロウ”は、前のナイツウォッチ統帥である父ジオー・モーモントが所有していた。 のちにジョン・スノウは、そのヴァリリア鋼の美しい剣を振りかざし奇跡的にもホワイトウォーカーを倒すことができたのだ。 言うなれば人類を救うことができるこの剣は本来の主の元へと...石灰化を止める治療法を求めて命と愛をかけた長旅に出たジョラーと、奇跡の剣を持つジョン・スノウ、二人が会う時が来るのかもしれない。 果たしてジョラーの目指す先はヴァリリアか? デナーリスに話したことのある、黒曜石ドラゴングラスが採れる未踏の地、アッシャイの彼方シャドウランドか? それとも、恩赦がおりたウェスタロスの地を踏み、故郷の地・熊の島ベア・アイランドへ向かうのか? ベア・アイランドはウィンターフェル城の北西にあるというので、石灰化を止め生きながらえたスタニス・バラシオンの娘・シーリーンをよく知る、ダヴォスと是非会ってもらいたい。 忠義に熱い「初老の騎士」談義をぜひ聞いてみたいものだ。 そして、その剣”ロングクロウ”で愛しい”女王(カリーシ)”を、また命の危機から救う日が来ることを待ち望んでいる。 そのためにも治療法をみつけて必ず戻ってきて欲しい。
男尊女卑の激しい時代に、”女王(カリーシ)”への忠誠を一途な愛で貫く男、ジョラー・モーモント。 一度ならず二度も、愛する人から追放を言い渡される姿は、とてもやるせなくいたたまれないが、私にとっては戦乱の世の癒やしの存在である。